Daisuke ITO

Pen PARIS

2019.11.13

フランスで発行されているPen PARISに新作を紹介して頂きました。

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<以下、訳文>

リオデジャネイロのスラム街で暮らした経験を持つ日本人フォトグラファー、伊藤大輔。日本に帰国し、彼を突き動かした被写体は、ありふれた観光地だった。

<クレジット>
TEXT: KAORI IWASAKI

<本文>
箱根、横浜中華街、浅草雷門、京都の金閣寺に大阪の通天閣……。日本人なら誰もが知る有名な観光地を捉えた写真だ。土産物屋に並ぶ絵ハガキのように定番化したロケーション。だが、じっと眺めていると、どこか奇妙で、なぜか新しさを感じる。違和感の正体は、鳥居や寺社や桜といった日本的なモニュメントを前にして、夢中でカメラを構えて誇らしげにポーズをとる、外国人観光客の姿が入り込んでいることにある。その無防備でコミカルな情景からは、旅する彼らのナチュラルな高揚感が伝わってくる。
日本の観光地を訪れた外国人旅行者が記念撮影にいそしむ様子を、ガイドブックのような構図で撮る。写真家・伊藤大輔の作品である。日本でのサラリーマン生活を経て、バルセロナで写真を勉強。中南米を巡り、リオデジャネイロのスラム街・ファヴェーラに居を構えた。現地で10年暮らし、ギャングや娼婦のいる風景やファヴェーラの人々を被写体とした写真集『ROMANTICO』を、今年1月に発表。日本人離れした大胆な行動力と人懐っこさで、ギャングのテリトリーに飛び込み、彼らのリアルな瞬間を捉えた写真は、日本のテレビ番組で紹介されて話題となった。
10年間のブラジル生活を切り上げて日本に帰国した彼が、次に撮り始めたもの。それがこの、一風変わった視点で捉えた日本の観光地シリーズである。リオのファヴェーラという、カメラを取り出すことすら憚られる世界有数の危険地帯で、他の誰にも撮れない緊迫したシーンを狙い続けてきた彼が、なぜ日本のありふれた観光地を巡り、真正面からシャッターを切っているのか。
「リオに住んでいた時はディープな場所ばかり行ってたから、コルコヴァードの丘のキリスト像のように、観光客が群がる一元的なものを撮りたいとは思わなかった。でも、今なら撮ってみたい気もする。それと同じで、自分は日本人だけど、日本のことをじつはよく知らない。外国から日本に戻り、この国をピュアな状態で見てみたくなったんです。だから、あえて一元的なものをきっちり撮ってやろうと思った」
自身も観光客として群衆に紛れるため、すべてスマホで撮影する。モニュメントがもっとも美しく見える構図を定めながらも、ふいに現れる観光客という第三者の目線を取り入れたドキュメンタリーだ。日本人とは行動様式が異なる外国人のハプニングを写し込むからこそ、純日本的な風景とのコントラストが面白い。
「スマホのおかげで空気のような存在になれる。写真家にとって、それは醍醐味でしょう。ファヴェーラでは、ギャングを刺激するから撮れない場面も多かったんです。“俺、今こんなにすごいものを見てるのに撮れないんだ”という思いの連続で、フラストレーションがありました。だから今、ノーガードに撮れることがすごく気持ちいいですね」
ここ数年、日本を訪れる外国人旅行者は急速に増え続けている。彼らがスマホやセルフィーを向けた景色に日本人もまた魅かれ、新奇な日本を再発見する。伊藤のアプローチは、インバウンドの隆盛に直面した日本のストリート写真における新しい系譜だろう。

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